観察日記 その2

手術前は、麻酔科のドクターがそれはそれは丁寧に説明をしてくれた。
麻酔科のドクターとこんなに長くお話しすることなんてない。
考えてみると、麻酔科医が患者と話をする機会はほぼこのときしかないのだろう。
麻酔中、患者はずっと眠っている。

手術用のベッドはかなり幅が狭い。そして温められていた。足元を太いベルトのようなもので固定される。
心電図を撮るためのパッドを胸に貼り付けられる。

初めに気分が和らぐ薬を投入。
徐々に瞼が重くなる。
次に本格的に眠る薬を。
もう瞼も開けられない。
おやすみ3秒とは正にこのこと。
その後のことは…もう記憶にない。

目覚めたのは、手術用のベッドから病室用ベッドに移る時だった。

ごろごろごろ。
ぐるぐるぐる。

ベッドが手術室から出て運ばれる。

見慣れた病室の天井が見えた。
手先、足先を動かしてみる。
思ったよりも軽い動きだ。

シャバーサナから動きと意識を繋いでいく動作がとても理にかなっていることがよくわかる。

大丈夫。

足を大きな菱形にしたくなる。

手足の動きとは裏腹に、切除した部分の痛みは徐々に強まってくる。
我慢しても仕方ないので、痛み止めの点滴をリクエスト。

今、どんな動作が出来るのだろう…
試してみる。
右手を上げるだけで右腰が突っ張る感覚。

足裏で踏ん張って軽く腰を挙げることは出来る。

尿意を催してトイレへ。
ベッドに座るだけでも一苦労。
粗相はしたくないという思いがカラダを突き動かす。

トイレが終わって立ち上がろうとしたら、急にクラクラまわってくる。
立ちくらみ。
しんどい。
呼吸が荒くなる。

看護師さんが空かさず車椅子を用意してくれて助かった。
(後で聞くと、術後4時間くらい経たないとトイレはだめだったらしい)

ひと息ついたのも束の間、昼食が運ばれてきた。
これは何としても食べねば…!
空腹というよりもむしろ使命感。
命を繋ぎたい本能が全開。
ベッドに傾斜をつけてもらう。
食べるのもかなり体力が必要。
一口運ぶ度にふぅ。
1時間かかった。

便意を催し、再びトイレへ。立派なのが出た。
今度は大丈夫。

安心して少し眠る。

頭がぼんやりする。
右後頭部が重だるい。

食事と排泄。
あんなに簡単に出来ていたことが、これほどハードルが高くなるとは…。
4人病室のうち、私を含めて全員、食事と排泄が困難になった。

亡くなった父や義母の入院生活に想いを馳せる。
あの時は、気持ちが分からなくてごめんなさい。

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