◇「3」

黒子沙菜恵さん(ダンス)×宮嶋哉行さん(バイオリン)×福西次郎さん(絵)の公演を見てきた。
いや、見たというより、その瞬間に遭遇したという感覚に近い。
始まる前、すぐ傍に黒子さんがいた。お客様のひとりと和やかに談笑している。そのあといつの間にかすっと居なくなった。黒子さんの姿が見えなくなった途端、私は出演者でもないのにどきどきしてきた。
舞台は境目なく始まった。
暗闇の中でうごめく身体。胸元と両手の白い肌だけがくっきりと浮かび上がっている。音のない空間、宙に向かってそろりそろりと空気をかき混ぜていく。
無造作に黒いシャツの袖口をめくる仕草、鋭い眼差し、動きが次の新たな動きを生み出し加速度を増す熱い身体、境目のない滑らかな動き。
どれを切り取っても、どう順番を変えて繋ぎ合わせたとしても矛盾無く繋がっている。
宮嶋さんの登場も境目なく始まった。
黒子さんが創った空間をバイオリンの音で一掃していく。まるで生き物のような滑らかな弓の動きから生み出される響き。開放弦だけなら自分もあんな風にバイオリンを奏でることができるかもしれない、そんなしあわせな錯覚をさせてくれる。丁寧に丁寧に音を探っていく宮嶋さん。大事なものを壊さないようにそっと。徐々にボルテージが上がっていく。宮嶋さんの身体とバイオリンと弓の動きが三位一体となる瞬間、それは素晴らしいダンスになっていた。
いつの間にか、黒子さんが向い側に立っていた。メロディのリフレインが黒子さんの身体のグルーブを増長させていく。
実に心地よい音と身体。
心地よいけれど、次に何が起こるか分からない緊張感、見えない糸が張り巡らされているようだ。
二人が創り上げた一発触発のきりりとした空気を、福西さんが容赦なく異なる匂いの風でかき乱していった。
引きずる雪駄の音と煙草の匂い、壁を引き裂くコテの音とともにみるみる白くなっていく壁。
この壁の行く末を固唾をのんでじっと皆で見つめている我々は、いったい何者なのか、何者であろうとしているのか、どこへ行こうとしているのか…
根源的な疑問がねっとりとした液を出す虫のように頭の中を這いつくばる。
3人3様の、存在そのものを賭けた対峙、即興の真骨頂を魅せてもらった。
終わったあと、ぐったりとした。
でも、不思議に身体は軽い。
長い長い帰路、景色を楽しむことのできない退屈な電車の窓越しには
暗闇で踊る黒子さんが見えた。
2012年4月2日(月) @京都アバンギルド

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