◇ガス恋し ~入院体験記その2~

「ガスは出ましたか?」
術後、何度も何度も聞かれた。
ガスが来ないと何事も始まらないらしい。
ガスが来ないと絶飲絶食の呪縛から逃れられない。
あぁ、ガス恋し…恋しやガス
屁みたいなもん
お風呂ではただの泡
普通の生活では取るに足らないものとされているが
待っていると恋人よりも愛しい存在になる。
しかも、出そうと思っても出るもんではない。
ごくごく自然にやって来るまで待つしかない。
ガス待ちの日々。
1日が経ち
2日が経つ。
私の人生はガスがやって来るのをただただ待つためにある、
そんな気がしてきた。
そして、3日目の気だるい午後。
そいつは予告もなく、とても控えめに音もなくやって来た。
すうっーー
身体の芯に、か細いけれど一本の通り道ができたようだ。
「えっ、今のそうやった?」
いや、確かに、そうだ。人に聞いてもわからない。
弱々しいものだが、こいつの威力はすごい。
痛くて単調な入院生活を潤いのある生き生きとしたものに変える風穴であった。
飲み物がOKとなり、オレンジジュースを飲ませてもらった。
うまい!
「すがすがしいし ガスガス」
(回文:上から読んでも下から読んでもいっしょ)
やったーーー!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA